剥製の島

叢書初版
出版社徳間書店
発行日1978/09/15
装幀新居田郁夫、矢島高光

収録作品

    • アマゾン・ゲーム
    • 閃光
    • 賭博者
    • 湘南戦争
    • 密漁者たち
    • イブの化石
    • マリーセレスト・2
    • 剥製の島

内容紹介

「アマゾン・ゲーム」

アマゾン開発計画に反対運動していた弟が警官に射殺されたことをきっかけに、主人公の寛が開発基地への攻撃計画に加わる、ミステリー的犯罪ゲーム作品。寛が襲撃に巻き込まれていく序盤、寛と天才機関員ラリーの攻防を描いた中盤、そして急展開の終盤まで、非常に緻密に練られたプロットが魅力です。

「閃光」

アルバイト先の大使館で偶然暗号を発見した予備校生の義雄と康二。受験も後回しに暗号解読に熱中する二人が、やがて恐るべき秘密を目にしてしまう、爽快な展開の短編です。鮮やかな印象を残す一篇です。

「賭博者」

ある作家が、執筆の構想を練りながらカジノで賭博に溺れ、路頭に迷う姿から始まります。実在の著名作家がモデルとなっているこの作品は、賭場でのルーレット勝負の意外な結末が見どころです。

「湘南戦争」

湘南の観光客の若者たちと、地元の漁師たちの確執が、ついには全面戦争へと発展するというショッキングな事態を描いた作品です。戦争の理不尽さと虚しさを突きつける重厚な一篇で、登場人物ならずとも「なぜ?」と問いたくなるでしょう。

「密漁者たち」

親子の密漁者が、釈放の代償に荷物運搬を引き受けるが、運んだ荷物が大麻だと知り絶望する、重厚な作風の短編です。ラストの親父の姿が哀しく印象に残ります。個人的にはこの作品が一番好きです。立派な冒険小説だと思います。

「イブの化石」

「イブの化石」こと遺体を巡るスクープを求めて中東の戦場に潜入するジャーナリスト2人の奇妙な体験を描いた作品で、ユーモアと哀しみが入り混じっています。戦争の醜さと、人間の小ささを突き付けつつ、ラストのオチには思わず笑ってしまうでしょう。

「マリーセレスト・2」

人里離れた別荘地で、住民全員が突然姿を消す「マリー・セレスト号事件」の再現と思われる怪事件を描いた作品です。住民消失の理由付けには無理が感じられるものの、意外な展開に驚かされます。 そして、

「剥製の島」

は、タイトル通り剥製の鳥を題材に、不気味な設定ながら哲学的な愛と復讐の物語が描かれた、傑作中の傑作です。三万羽のカラスの大群、巨大な夫の化身の剥製鳥、射手との対決といった緊迫の叙述に、最後は哀しくも美しいフィナーレが待っています。 人間の愛と死生観を斬新な視点から描いた「剥製の島」を中心に、いずれの作品も緻密な構成と鮮やかな物語性を併せ持つ、見事な短編集と言えるでしょう。ぜひ一読をおすすめします。

文庫・再刊情報

叢書徳間文庫
出版社徳間書店
発行日1985/09/15
装幀 緒方雄二、矢島高光