叢書 | NON NOVEL |
---|---|
出版社 | 祥伝社 |
発行日 | 1976/11/05 |
装幀 | 坂野豊+松島正矩 |
内容紹介
「謀殺のチェス・ゲーム」は、山田正紀の代表作の一つであり、ミリタリー小説の金字塔とも言えるでしょう。この作品は自衛隊を舞台に、次世代哨戒機PS-8を巡る頭脳戦を描いたサスペンスであり、ゲーム理論とチェスの概念を巧みに取り入れた骨太の作風が特徴です。
物語の発端は、PS-8の実体験飛行中に奥尻島沖で消息を絶ったことから始まります。事件の深刻さを受け止めた宗像一佐は、国家機密にも関わる新鋭機PS-8の奪還に全力を尽くすことを決意します。宗像は最新のゲーム理論を応用して作戦を立て、相手の思惑を読み解いていきます。
宗像はかつて新戦略専門家(ネオステラテジスト)の最終候補者だった同期の藤野が、この事件の黒幕ではないかと見抜きます。藤野は過去に宗像に敗れ、愛桜会(自衛隊の守旧派の会)に加わったことがあります。現在は自衛隊を牛耳る勢力となっており、PS-8を手に入れることで自らの権力を確立しようとしていると宗像は考えます。そして予測に反して、藤野の動きは常に宗像の二手先を行く含みを持っていました。宗像はゲーム理論の応用により相手の策を事前に読み解き、封じ込めていきますが、藤野は絶えず予期せぬパターンで宗像の対策を打ち砕いてくるのです。
一方、実行部隊である立花大尉と佐伯曹長は、奥尻島沖の離島に籠城する敵勢力と遭遇します。立花と佐伯は過酷な環境の中で命がけの肉弾戦を強いられ、機体を奪還すべく懸命の戦いを繰り広げることになります。立花と佐伯の活躍は迫力に満ちており、読者の胸を熱くさせずにはおきません。
さらに、宗像と藤野の頭脳戦劇には、意外な要素が加わります。それが少年少女のヤクザ集団の介入です。彼らは犯行に便乗し、宗像と藤野双方から逃げ延びながら、思わぬ混乱をもたらしていきます。この不確定要素により、頭脳戦はさらに予測不能な展開を見せることになります。
そして物語は佳境に入ると、思ってもみない大逆転が待っていました。敵勢力の内情に精通した藤野は、見事に宗像を油断させ、ある重大な指し手を披露します。一時はPS-8の奪還が絶望視されますが、宗像は最後の一手を見逃さず、奇策で事態を打開していきます。
後半の山場では、宗像が一世を賭して藤野と渾身の頭脳戦を展開します。ここでは両者のゲーム理論に基づく心理戦が圧巻です。お互いにチェスの一手一手を読み合い、相手の潜在的な行動をすべて予測し、封じ込めていく....この緊迫したゲームは、まさに頭脳プレーの極地と言えるでしょう。
そして、物語の終盤に向け、自衛隊の内部抗争という大きな構図が浮かび上がってきます。愛桜会勢力を牽制してきた宗像に対し、権力を手に入れようとする藤野の野望が明確になっていくのです。ついにPS-8の行方が決着を迎えるか....? そのクライマックスでは、意外な展開が読者を驚かせることになります。
全体を通して、この作品には山田文学の真骨頂が存分に発揮されています。ゲーム性やチェス的構造、そして作戦の精緻さなど、これらが有機的に融合した極上のサスペンスが展開されているのです。次世代哨戒機 PS-8の奪還を巡って繰り広げられる、頭脳戦のゲーム性。多角的な視点から描かれる緻密な人間模様。不確定要素の投入による意表をついた展開。これらの要素が見事に調和しており、まさに山田正紀の真骨頂と呼ぶに相応しい作品なのです。
自衛隊の内部抗争や権力闘争といった重厚なテーマ、ゲーム理論を応用した戦略と心理戦、そして次世代哨戒機を賭けた男たちの熱き闘いなど、「謀殺のチェス・ゲーム」には見どころが満載です。ミリタリー小説ファンはもちろん、頭脳戦を描いた緻密な推理小説が好きな方にもお薦めの一冊です。ゲームの理論と心理戦が巧みに融合した極上のサスペンスを、是非ご堪能ください。
文庫・再刊情報
叢書 | 秋田漫画文庫 |
---|---|
出版社 | 秋田書店 |
発行日 | 1978/09/20 |
装幀 | 清藤宏(本編:田辺節雄) |
叢書 | 角川文庫 |
---|---|
出版社 | 角川書店 |
発行日 | 1982/11/30 |
装幀 | 福田隆義 |
叢書 | 徳間文庫 |
---|---|
出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 1991/06/15 |
装幀 | 吉田純、池田雄一 |
叢書 | ハルキ文庫 |
---|---|
出版社 | 角川春樹事務所 |
発行日 | 1999/05/18 |
装幀 | 三浦均、芦澤泰偉 |
叢書 | ハルキ文庫(新装版) |
---|---|
出版社 | 角川春樹事務所 |
発行日 | 2014/10/18 |
装幀 | ©Michael H/Getty Images、五十嵐徹(芦澤泰偉事務所) |