50億ドルの遺産

叢書KAPPA NOVELS
出版社光文社
発行日1979/04/30
装幀新井苑子

内容紹介

東洋の楽園に息づく陰謀の種子

南国の小さな島国・スマリ。かつてベトナム戦争の基地だったこの地に、戦火の残した兵器が50億ドルの価値を秘めて眠っていた。新生国家は国際金融機関からの融資でその秘宝を活用し、立派な国造りを遂げたはずだった。

しかし、その地下に潜む50億ドルの秘密は、スマリの運命を動かす陰謀の種子となっていた。新たな野心が芽生え、島の未来は極限に向かって揺らぎ始める。

若者たちの運命が交差した南国の島

ある日、ひょんなことからスマリ島を訪れた中尾英輔。偶然目撃した事件によって、この放浪者は島の秘密に無残に巻き込まれてしまう。そこで出会ったのが、美しき大学生・美川祐子だった。

2人は出会うべくして出会い、運命の冒険に旅立つことになる。彼らの目的は、50億ドルの謎の埋蔵品を手に入れること。しかし彼らが知るよしもなく、破滅的な陰謀の渦に飲み込まれていく。

敢行不敢行の南国離島探索記

熱帯の豪雨に見舞われ、手つかずの自然に翻弄される。時に熱帯病に冒され、しのぎを削られる。スマリ島の秘境で2人が味わうのは、過酷な環境とさまざまな試練の数々だった。

それでも彼らは、不可能を可能にする青春の愛と冒険心によって乗り越えていく。地上の楽園とも呼ぶべき美しき島で、中尾と祐子の邂逅と冒険が紡がれていく。

陰謀のヴェールを剥がす衝撃の真実

探索が進むにつれ、徐々に陰謀の全貌が明らかになっていく。だが待ち受けていたのは、誰もが予想だにしない驚愕の事実だった。2人は陰謀に翻弄され、遂に50億ドルの秘密に遭遇する。

その真実は残酷であり、同時に淒美でもあった。若者たちの運命は一身に島の野望を投影されていた。理不尽な因果が、愛と憎しみを渦巻かせながら、彼らを永遠の離島の迷宮へと導く。

全てを賭けた青春の大冒険

「50億ドルの遺産」は緻密で意外性に富むストーリー展開とともに、南国の雰囲気が生々しく描かれている。この作品全体に漂う、西暦と地理を超えた神秘的な雰囲気が、読者を作品世界に引きずり込む。

さらに、序盤で一部の陰謀が明かされ、徐々にその核心へと迫っていく構成には、青春冒険小説らしいスリリングな展開がある。探索と発見が読者を手に汗を握らせ、最後の結末まで気が抜けない。

ラストについては一部で賛否があるが、熾烈な冒険の行く手に納得のいく終着点がある。中尾と祐子が遭遇する真実は、決して願ったものではないが、この物語にふさわしい後味の良い余韻を残してくれるのだ。

愛と冒険の大空へ飛び立つ青春の軌跡

50億ドルの夢を抱いて冒険に身を投じた中尾と祐子の運命は、スマリ島の虚実を超えた世界で今も続いている。

2人の出会いから始まり、思いもよらぬ離島探索へと展開した物語は、ときに美しく、ときに醜くもあった。しかし最終的に辿り着いたのは、青春の愛と冒険心が生み出す大空だった。

50億ドルの魅惑に苦しみながらも、中尾と祐子は自らの運命に身を任せた。それが、虚無の余韻と無窮の可能性を同時に感じさせる、この作品の最大の魅力となっているのだ。

文庫・再刊情報

叢書徳間文庫
出版社徳間書店
発行日1986/10/15
装幀 緒方雄二、矢島高光