
叢書 | The Cthulhu Mythos Files |
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出版社 | 創土社 |
発行日 | 2017/12/10 |
装幀 | 桜ヰココロ、山田剛毅 |
内容紹介
📚異界との接点を描く名手——山田正紀「銀の弾丸」
文学、SF、クトゥルー神話の“交差点”に立つ短編集
『銀の弾丸』は、山田正紀が1970年代から書きためてきた短編の中から、クトゥルー神話またはそれに近しいテイストを持つ作品を選び再編集した一冊。単なるホラー作品集ではなく、時代性・宗教性・社会的コンテクストまで取り込んだ、濃密な知的エンタメである。
🔍各作品レビューと深読みポイント
「銀の弾丸」
ギリシャ・パルテノン神殿、ローマ法王、能、クトゥルフ――この組み合わせで既に山田正紀の手腕がわかる。
- テーマ:西洋宗教と東洋芸術の衝突
- 魅力:「能」が“召喚の儀式”として描かれる構想の大胆さ
- 印象的ポイント:厳重警護の中、クトゥルー召喚阻止のために講じる奇策のインパクト
- 参考URL:黄金の羊毛亭 感想
この作品の核心は、「芸術が現実を侵蝕する瞬間」にある。能は演劇であると同時に、呪術であり、宗教儀式であり得るのだ。
「おどり喰い」
神戸大空襲という歴史的悲劇と、クトゥルー的恐怖の融合。
- テーマ:飢餓と欲望の極限状態での“選択”
- 魅力:日本の戦争体験とホラーの交差
- 描写の強さ:飢えた子どもが導かれる“白屋敷”の描写は圧巻
- 参考URL:Amazonレビュー
最後に待っているのは“明示されない恐怖”。それが読後感の暗さと余韻を強める。
「松井清衛門、推参つかまつる」
怪獣、ゾンビ、江戸時代、北辰一刀流、稲垣足穂、そしてバロンガ。
- テーマ:武士道とホラーのクロスオーバー
- 魅力:『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」とのリンク
- 参考URL:時代伝奇夢中道
これは「ゾンビ時代小説」の最高峰かもしれない。怪獣よりもゾンビ描写が際立つ、異色作中の異色作。
「悪魔の辞典」
探偵もの×ウィアード・ウェスタン×クトゥルー。
- テーマ:アメリカ文化と神話の再構成
- 魅力:ピンカートン探偵社、銃撃戦、ビアスの「悪魔の辞典」
- 参考URL:Amazonレビュー
バカ映画一歩手前で踏みとどまる。ギリギリのバランス感覚が笑いと恐怖を同居させる。
「贖罪の惑星(ほし)」
宗教と終末思想。まさに“現代の神話”。
- テーマ:カルトと“自滅する人間性”
- 魅力:想像力を掻き立てる“名前のない存在”の描写
- 参考URL:Amazonレビュー
「見えない神」を信じる人々の末路に、“見えない恐怖”の本質がある。
「石に漱ぎて滅びなば」
ロンドン、夏目漱石、スパイ、そしてクトゥルー。
- テーマ:明治の知識人と西洋の闇
- 魅力:カレーの作り方から始まるギャップとシュールな展開
- 参考URL:黄金の羊毛亭
わずか数十ページの中に、文学、神話、スパイ、ユーモアすら詰め込まれている。
「戦場の又三郎」
宮沢賢治の『風の又三郎』の“その後”を描いた戦場ホラー。
- テーマ:記憶と再会、風の精霊と死の戦車
- 魅力:幼少期の記憶が、戦場という極限状態で回帰する構造
- 参考URL:Amazonレビュー
「又三郎」は風のように現れ、そして再び“風”になる。ラストが温かいのも本作の特徴。
🌍本作が放つ“山田正紀らしさ”とは?
- 文化横断的視点:能とクトゥルー、西洋神話と日本文学が自在に組み合わされる。
- 寓話的構造:ホラーとして読むより、寓意と象徴を楽しむ姿勢が重要。
- 技巧的語り:各短編はジャンル的にはバラバラでも、通底する“異質さ”が一貫している。
🧩FAQ:読者の疑問に答えます!
Q. 「銀の弾丸」ってクトゥルー神話そのもの?
A. 直接的ではなく、クトゥルー神話を山田正紀流に翻訳した“再解釈”作品といえます。
Q. 怖い? グロい?
A. どちらかというと「じわじわくる」知的恐怖。グロ描写は限定的です。
Q. 誰におすすめ?
A. ホラー好きだけでなく、文学ファン、歴史マニア、宗教に興味がある人まで幅広くおすすめです。
🧠もう一歩深く読みたい方へ
- Colin Wilson『The Mind Parasites』
- Ambrose Bierce『悪魔の辞典』
- 稲垣足穂『懐しの七月』
- クトゥルー神話 基礎知識まとめ
✍️あとがきに代えて
山田正紀の『銀の弾丸』は、“読むクトゥルー”ではなく、“考えるクトゥルー”。
想像力と知性を要求される読書体験だが、それだけに得られる満足度も段違いだ。
何より、日本という文脈の中でクトゥルー神話をどう咀嚼し、展開できるかの一つのモデルを提示している点で、本作は唯一無二。短編集でありながらも、全体で一つの“物語宇宙”を構築しているような、完成度の高さを感じさせる。
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