終末曲面

叢書初版
出版社講談社
発行日1977/07/26
装幀滝野晴夫

収録作品

    • 贖罪の惑星ほし
    • 燻煙肉ハムのなかの鉄
    • 闇よ、つどえ
    • 銀の弾丸
    • 熱風
    • 非情の河
    • 終末局面

内容紹介

山田正紀による短編集『終末曲面』は、この時期特有の暴力的な描写もあり、読者に深い印象を残す作品群です。ここでは、収録作品を通じて見えてくる、山田正紀の文学世界について深掘りしていきたいと思います。

「贖罪の惑星」 - 終末への序曲

「贖罪の惑星」は、消えた恋人と宗教団体「滅びてしもう教」、そして「戻らずの森」という舞台設定から、人間の信仰と終末観を探ります。終末を待つ人々の心理と、主人公の因縁の地である「戻らずの森」での出来事は、読者に強烈な印象を与えます。ここに描かれる終末は、物理的な破滅だけでなく、人間の内面における終末をも示唆しています。

「燻煙肉のなかの鉄」 - 文明の崩壊と人間性

この作品は、文明の崩壊後の世界を背景に、「人喰い」と「草喰い」という二つのグループに分かれた人類の姿を描きます。人肉ハムを製造する「屠殺人兄弟」という存在は、この終末の世界における倫理観の崩壊を象徴しています。作品全体を通じて、山田正紀は文明の終焉後に残された人間性について深く問いかけています。

「闇よ、つどえ」 - 暴力と終末のシナリオ

廃墟と化した東京を舞台にした「闇よ、つどえ」は、暴徒たちの破壊衝動とその終末的な幕切れを描いています。この作品では、SF的なアイデアと共に、人間の持つ暴力性が終末に向けてどのように発露するのかを描き出しています。読者は、文明の崩壊という極限状況下での人間の本質について考えさせられます。個人的には、この作品が当時一番痺れた!

「銀の弾丸」 - 異世界との接触

H.P.ラヴクラフトのクトゥルー神話を題材にした( **和製クトゥルーものとしては二作目らしい。短編としては初?** の)「銀の弾丸」は、異世界との接触を通じて、人類の終末を異色の視点から捉えます。この作品は、古典的なクトゥルー神話を山田正紀独自の解釈で描き、皮肉なラストが特徴です。終末とは異なる形での「終わり」を提示し、読者に新たな視点を提供します。

「熱風」 - アメリカン・ドリームの裏側

「熱風」は、殺人罪で刑務所に収容されていたギルが、突如として釈放され、火星への宇宙飛行士訓練生として選ばれるところから物語が始まります。この作品は、アメリカン・ドリームという概念への鋭い批判を込めつつ、ギルと名家の息子ニックとの間に生まれる複雑な関係を描いています。訓練の過程で明らかになる二人の競争、そしてその背後にある社会的な対立は、夢への追求がもたらす人間関係の複雑さを示しています。この作品は、成功とは何か、そしてその代償について読者に問いかけます。

「非情の河」 - 時代を超える詩的な探求

「非情の河」では、売れない詩人がフランス語で書かれた詩のようなものが記された紙片を手に入れることから物語が展開します。この紙片が詩人ランボーの未発表原稿であることが判明すると、物語は予想外の方向へと進んでいきます。紙片が新しいものであるという事実から、過去と現在、そして作品と作者との関係性が複雑に絡み合います。この短編は、文学作品が時間を超えてどのように生き続けるか、またそれが現代にどのような意味を持つのかを探ります。ランボーの詩が持つ永遠性と、それを追求することの孤独や絶望が、深く印象的なラストシーンで描かれています。

「終末曲面」 - 終末への深い洞察

短編集のタイトル作でもある「終末曲面」は、数週間の失踪後に記憶を失って戻ってきた夫と、その背後にある終末の危機を描いています。この作品では、日常に潜む終末の兆しと、それを追求する人々の姿が描かれます。アイデアと展開に優れ、山田正紀の文学的才能が光る作品です。

『終末曲面』に収録されたこれらの短編は、山田正紀が描く終末の多様なシナリオを示しています。読者は、それぞれの作品を通じて、終末に向けた人類の葛藤、倫理観の変容、そして内面的な終末を深く感じ取ることができるでしょう。山田正紀の『終末曲面』は、単なる短編集を超え、読者に対して深い思索を促す作品集と言えます。

文庫・再刊情報

叢書講談社文庫
出版社講談社
発行日1979/10/15
装幀 滝野晴夫