赤い矢の女

叢書TOKUMA NOVELS
出版社徳間書店
発行日1988/11/30
装幀村山潤一、池田雄一

内容紹介

1. あらすじ

『赤い矢の女』は、平凡な生活を送っていた主人公・美代子が恋人の失踪をきっかけに事件に巻き込まれるサスペンス小説です。物語の発端は、恋人・石動良雄がコンビニに立ち寄ったまま行方不明になるところから始まります。その後、美代子の元に届いた封書には、35年前にスパイ疑惑で自殺した石動辰雄の新聞記事と死体鑑定書のコピー、さらに「良雄もまた能登の海で命を絶った」という知らせが――。

彼女は謎を解くために能登、そしてモスクワからレニングラードへと旅立ちます。現地で待ち受けるのは、スパイ活動に関わる陰謀、愛と裏切り、そして“赤い矢”に導かれる運命の糸でした。

2. 本作の魅力

『赤い矢の女』の魅力は、その複雑で緻密な構造にあります。一見平凡な大学生である美代子が、徐々に壮大な謎に巻き込まれる展開はまさに山田正紀の真骨頂。以下のポイントを詳しく見ていきましょう。

2.1 サスペンスの技巧

物語は、一つの事件が次々と別の事件へと繋がる「ドミノ型」の構成を採用しています。例えば、石動良雄の失踪という小さな謎から始まり、35年前のスパイ疑惑、能登での不可解な死、そしてソ連時代の国際的な陰謀が絡み合う展開に発展します。このように、一つのピースが全体像を見せる手がかりとなる構成は、読者の想像力を刺激し、物語に引き込む要素となっています。

2.2 時代背景とのリンク

本作が書かれたのは、冷戦終結以前のソ連が健在だった時代。山田正紀は当時の緊張感ある国際情勢を物語に反映させています。特に、スパイ活動や国家間の駆け引きが描かれる場面では、作者自身の綿密なリサーチと卓越した筆力が光ります。この作品を通して、現代の読者も冷戦期の政治的緊張を追体験できるでしょう。

2.3 登場人物の内面描写

主人公・美代子は、最初はごく普通の女子大生として描かれていますが、物語が進むにつれて困難に立ち向かい、成長していきます。彼女の行動や心情にはリアリティがあり、読者は共感を覚えながら彼女の旅路を見守ることができます。また、恋人の石動良雄や、35年前のスパイ・石動辰雄といったキャラクターたちも、物語の謎に深く関与しており、それぞれが多面的な魅力を持っています。

3. 主題とテーマ

3.1 運命とアイデンティティ

本作の根底には、「運命」と「アイデンティティ」というテーマが流れています。主人公・美代子は、恋人の行方を追う中で、自身のアイデンティティや人間関係に対する疑問に直面します。また、「赤い矢」という象徴的なモチーフが、運命に導かれるキャラクターたちの宿命を暗示しています。

3.2 愛と裏切り

物語の中核には、愛と裏切りという感情の揺れ動きが存在します。石動良雄の行動や、彼に関わる人物たちの選択は、読者に「信じること」と「裏切られること」の儚さや切なさを考えさせます。

4. 現代の視点から読む『赤い矢の女』

『赤い矢の女』は、冷戦時代の緊張感を描いていますが、現代の読者にも共鳴する要素を持っています。例えば、情報が簡単に手に入る現代においても、個人が何か大きな謎や陰謀に巻き込まれた際に抱く恐怖や葛藤は普遍的です。また、作品が描く「アイデンティティの模索」というテーマは、SNS時代の現代人にも刺さる部分があるでしょう。

結びにかえて

『赤い矢の女』は、サスペンス好きにはたまらない一冊です。山田正紀の卓越したストーリーテリングと、細部まで作り込まれたプロットが、読者を最後まで飽きさせません。この機会にぜひ読んでみてはいかがでしょうか?