暗黒の序章 -マシンガイ竜-

叢書角川文庫
出版社角川書店
発行日1986/08/25
装幀永井 豪

内容紹介

山田正紀『暗黒の序章』:少年と竜、そして終末への序曲

『暗黒の序章』解説:終末を背負った少年、竜の物語

山田正紀と永井豪。二人の巨匠がタッグを組んだSFアクション『暗黒の序章』は、記憶喪失の少年・竜を主人公に、謎の巨大生物、陰謀渦巻く矯正センター、そして迫り来る終末を描いた衝撃作です。小説と劇画の融合という斬新な手法で描かれた本作は、まさに「序章」という言葉が示す通り、物語の始まりを予感させながらも、未完のまま読者を強烈な余韻に突き放します。本稿では、『暗黒の序章』の魅力と見どころを、作品の内容に沿って詳しく解説していきます。

地熱発電所、炎、そして竜の誕生

物語は、突如発生した爆発炎上によって壊滅した地熱発電所から始まります。炎の中から現れたのは、一人の少年。裸のままで火傷一つ負っていない彼は、すべての記憶を失っていました。少年は保護され、“未成年矯正センター”へと送られます。そこで「竜」という名を与えられた少年は、自らの出生、そして秘められた力にまつわる壮大な物語へと巻き込まれていくのです。

矯正センター:閉鎖空間が生み出す歪み

竜が送られた未成年矯正センターは、外界から隔絶された閉鎖的な空間です。そこでは、力による支配と抑圧が日常的に行われ、少年たちは自らの運命に翻弄されていました。この矯正センターの存在は、永井豪作品に見られる閉鎖的な空間であると同時に、権力による抑圧と管理を象徴する場所として機能しています。『デビルマン』におけるヒマラヤでのサタン復活の場面や、『バイオレンスジャック』における関東大震災後の荒廃した世界など、極限状態における人間の本性を描くという点で共通しています。竜は、この矯正センターという異常な環境の中で、自らの力に目覚め、そして運命に立ち向かうことになります。

竜の覚醒:秘められた力と巨大な影

記憶を失っていた竜ですが、矯正センターでの生活の中で、徐々に自らの力に目覚めていきます。その力は、超常的なものであり、周囲の人間を驚愕させると同時に、彼自身にも制御できないほどの強大なものでした。地熱発電所の爆発、そして竜の出現。この二つの出来事には、何らかの関連性があることが示唆されます。竜の背後には、常に巨大な影の存在が感じられ、それが竜の力の源泉であると同時に、世界の終末を招く存在である可能性も示されています。この、主人公の特異な能力や謎めいた設定は、山田正紀特有のSFアイデアと言えるでしょうか。

永井豪×山田正紀:小説と劇画の融合

『暗黒の序章』最大の特徴は、小説と劇画の融合という斬新な表現手法です。永井豪による劇画は、単なる挿絵ではなく、コマ割り、擬音、台詞などが加えられ、物語をより深く理解するための重要な要素となっています。小説の文章と劇画のビジュアルが相互に作用し合い、読者に強烈な印象を与えます。これは、山田正紀の緻密な設定と世界観、そして永井豪のダイナミックな表現力が融合した結果であり、他に類を見ない独特の世界観を生み出しています。

山田正紀的要素
  • 科学的な設定
  • 謎めいた超能力の描写
  • 緻密な世界観構築
永井豪的要素
  • 閉鎖空間での権力構造
  • 抑圧からの解放というテーマ
  • ダイナミックな作画
未完の物語:終末への序曲

『暗黒の序章』は、まさに「序章」という言葉が示す通り、物語の始まりを描いた作品です。竜の出生の秘密、巨大な影の正体、そして世界の終末など、多くの謎を残したまま物語は終わっています。これは、読者にとっては非常に frustrating な部分ではありますが、同時に、無限の可能性を秘めた作品とも言えます。未完であるがゆえに、読者はそれぞれの解釈で物語を補完し、竜の未来、そして世界の行く末を想像することができます。

魅力と見どころ:終末観、人間ドラマ、そして希望

『暗黒の序章』の魅力は、終末観、人間ドラマ、そして希望という複数の要素が複雑に絡み合っている点にあります。迫り来る終末の中で、人間はどのように生きるのか。竜という特殊な能力を持った少年は、どのような選択をするのか。暗黒の世界の中にも、わずかな希望の光が描かれている点が、この作品をより深く、そして魅力的なものにしています。

結論:暗黒の先に待つもの

『暗黒の序章』は、未完ながらも強烈な印象を残す作品です。竜という謎めいた少年の物語を通して、読者は終末観、人間の本質、そして希望について深く考えさせられます。物語の続きが描かれることはもうありませんが、だからこそ、読者一人ひとりがそれぞれの「暗黒の序章」を想像し、その先に待つものを思い描くことができるのです。

理屈で考えれば、「マシンガイ竜」シリーズの第一巻「暗黒の序章」ということになったはずですねえ。なんで続巻が出なかったのか。両雄並び立たず、ということか。編集担当には頑張って欲しかったところです。