
叢書 | 幻冬舎ノベルス |
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出版社 | 幻冬舎 |
発行日 | 1998/02/16 |
装幀 | 田渕裕一、高橋雅之 |
内容紹介
「仮面」は誰のものか?
山田正紀の『仮面[ペルソナ]』は、ただの密室殺人ミステリではない。 仮装パーティの夜に始まる連続毒殺事件というクラシックな導入。しかし、ページをめくるごとに読者の足元をすくうような構造の転倒が仕掛けられ、私たちは「事件の真相」だけでなく、「語りの意味」そのものを問われることになる。
この物語では「仮面」という言葉が、比喩として、心理学用語として、そしてミステリの構造装置として多層的に使われている。名探偵・風水火那子(ふうすい かなこ)が追うのは、ただの犯人ではない。「誰が、どの仮面を被っていたのか?」という、もう一段階深い謎なのだ。
物語の構成:壊れた時間軸と「回想」の罠
本作最大の特徴は三重構造の語りだ。通常のミステリは、「事件→捜査→解決」という流れだが、本作はそうはいかない。
- 導入部:仮装パーティの夜
- クラブ「クレイモア」での最後のパーティ。
- 男女7人+コック+助手・火那子=計9名が密室に閉じ込められる。
- 突然のタイムスリップ:事件“後”の事情聴取
- 物語は唐突に事件後へとジャンプ。
- そこで2人の人物が異なる“犯人”を指摘。
- 一体どちらが本当なのか? 読者は早くも混乱に陥る。
- 再構成される真相:関係者の手記と火那子の回想
- 事件の夜の出来事が、関係者の手記と火那子の回想で徐々に明かされていく。
- だが、この「手記」が仕掛けの核心なのだ。
トリックとテーマ:「手記」が語るのは真実か?
『仮面[ペルソナ]』において、読者を最も驚かせるのは「手記」そのものが トリックの道具として機能している点。
- 誰が書いたのか?
- どこまでが本当で、どこからが嘘なのか?
- 記述に“記号”が仕込まれていたとしたら……?
Amazonレビューでも指摘されているように、この「記号」による暗号化は、読者に真実を見抜かせる導線であると同時に、作者による“物語の記述上の仕掛け” でもあるのだ(出典:Amazonレビュー)。
ペルソナの意味:「仮面」は人を守るのか、欺くのか?
タイトルに使われた「仮面(ペルソナ)」は、明らかに心理学用語からの引用だ。 ユング心理学において「ペルソナ」とは、社会に適応するための“外面の自分” を意味する。
この作品の登場人物たちは、物理的にも心理的にも「仮面」を被っている。
- パーティでの仮装(魔女、道化師、小鬼、死神など)
- 社会的な役割(探偵、犯人、被害者、傍観者)
- そして読者自身が読むことで被らされる“読者という仮面”
特に探偵役である火那子自身も、「名探偵」という仮面を被っていたことが終盤で明らかになる。 そしてその仮面を、自らの手で脱ぐ――
「人は仮面(ペルソナ)を選んでいるつもりでも、仮面(ペルソナ)に選ばれているのではないか」 ——引用:たまらなく孤独で、熱い街
火那子という探偵:「退場」の予感
この作品がシリーズ第2作にして風水火那子の“退場”を示唆しているという意見もある(出典:黄金の羊毛亭)。
事件を追い詰めた火那子が、最後に自転車で夜の道を走り去るシーン。 それは探偵の勝利ではなく、「名探偵」という仮面を脱ぎ捨てた人間としての再出発を感じさせる。
火那子は、犯人を“断罪しない”。ただ、事実を伝えるだけだ。 この描写は、従来のミステリとは明らかに異なる。
読後感と評価:ただの「変わり種ミステリ」ではない
『仮面[ペルソナ]』は、ただ奇抜なトリックを用いただけの作品ではない。 「語りとは何か」「人物とは何か」「読者の視点とは何か」といったメタ的問いを内包した、極めて野心的なメタフィクション/ミステリなのだ。
好評ポイント
- 独創的な構成
- 叙述トリックの精度
- ペルソナをテーマにした深い哲学性
賛否両論ポイント
- 犯人の動機が弱い(出典:オッド・リーダー)
- トリックが過剰でアンフェアに感じられる(出典:ミスナビ)
- 一部仕掛けが分かりやすくなってしまっている(出典:読書メーター)
読者への問い:「あなたの仮面は、誰のためのもの?」
ミステリとして読んでも、文学として読んでも、この作品は読者にある種の“ざわつき”を残す。 それは、仮面を被っていたのが登場人物だけでなく、読者自身だったと気づくからかもしれない。
あなたは、自分の仮面を意識しているだろうか?
🪞最後に|この物語は「あなた」のことでもある
『仮面[ペルソナ]』を読み終えたあとに残るのは、謎解きの爽快感ではない。 むしろ、それぞれのキャラクターが背負っていた「ペルソナ」の重さ、そしてそれが読者自身にも重なるという静かな衝撃だ。
火那子が最後に放った言葉のように—— 犯人は、犯人ではなかったのかもしれない。 あなたが、あなたではないように。
🔗 参考リンク・参照元
文庫・再刊情報

叢書 | 幻冬舎文庫 |
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出版社 | 幻冬舎 |
発行日 | 2005/03/31 |
装幀 | 赤治絵里(幻冬舎デザイン室) |