仮面戦記1 -迯楼羅(カルラ)-

叢書TOKUMA NOVELS
出版社徳間書店
発行日1991/10/31
装幀天野喜孝、矢島高光

内容紹介

作品解説

はじめに

山田正紀による「仮面戦記」シリーズは、戦国時代を舞台にしながら、独自の伝奇世界観を構築した野心作です。第1巻『迦楼羅』は、その壮大な物語の幕開けとなる作品です。

物語の舞台設定

物語は、天下統一へと向かいつつある戦国時代を舞台としています。特筆すべきは、作中で実在の武将である織田信長や豊臣秀吉が「ノブナガ」「ヒデヨシ」とカタカナ表記で描かれることです。これは単なる表記上の工夫ではなく、歴史上の実在人物を「物語内の登場人物」として再解釈する作者の意図的な演出であると考えられます。

独創的な主人公の設定

主人公・恋重荷丸(こいのおもにまる)は「落師(おとし)」という独特の職業の持ち主です。落城の際に姫君や奥方を救出することを生業とする、いわば「専門的な救出のプロフェッショナル」です。この設定は、以下の点で非常に興味深いものとなっています:
  1. 戦国時代の「負け組」に寄り添う視点を提供
  2. 「矛(ローチン)」と「盾(ティンベー)」という独特の武器による戦闘描写
  3. 歴史の表舞台ではなく、裏面から時代を描く視座

物語の核となる「三つの仮面」

作品の中核を成すのは、「迦楼羅」「酔胡王」「呉女」という三つの仮面(散手虚空面)です。これらの仮面は単なる能面ではなく、時空を超える力を秘めた神秘的なアイテムとして描かれます。この設定は日本の伝統芸能である能と、ファンタジー的要素を見事に融合させた独創的なものです。

キャラクター造形

作中には個性的なキャラクターが多数登場します:
  • 恥束師(はづかし)のムヒカ:盗賊団のリーダー
  • 影迷(かげまよう):閻軍団戦闘隊長
  • 幻風道人:魔導士
  • 鴫姫:物語の重要人物
特に影迷は、妖術と鋼鉄の鞭を操る強敵として描かれ、主人公以上の存在感を放つキャラクターとなっています。

作品の文体と描写

山田正紀特有の文体は、この作品でも遺憾なく発揮されています。格調高い文章の中に、時折挿入される現代的な言い回しが、独特のリズムを生み出しています。戦闘シーンの描写は特に秀逸で、スピーディーかつ立体的な展開が読者を魅了します。

作品の主題

本作には「正統な支配者とは何か」という深いテーマが内包されています。作中の印象的なセリフ:
「信長にしろ、秀吉にしろ、しょせんは人の領地を奪いとろうとする盗人にすぎない」 は、権力の正当性に対する鋭い問いかけとなっています。

評価

本作の特筆すべき点は以下の通りです:
  1. 戦国物でありながら、従来の戦国物の枠を超えた斬新な設定
  2. 日本の伝統文化である能の要素を、ファンタジー的に昇華した独創性
  3. 重層的なテーマ性と娯楽性の見事な調和
  4. 個性的なキャラクターたちによる重厚な人間ドラマ

結論

「仮面戦記」第1巻は、歴史ファンタジーの新境地を切り開いた意欲作と評価できます。残念ながら未完となっていますが、その独創的な世界観と重厚な物語展開は、現代の読者にも新鮮な衝撃を与えうる作品です。
おまけ

本シリーズが気に入った方は、『闇の太守』シリーズも是非手に入れてお読みになっていただければと思います。

しかしまあ、次から次へととんでもない面白本を書いてくれますなあ。