
叢書 | ハヤカワ・ミステリワールド |
---|---|
出版社 | 早川書房 |
発行日 | 2005/11/30 |
装幀 | 生頼範義、ハヤカワ・デザイン |
内容紹介
🧩昭和史に乱歩を重ねる歴史幻想ミステリの傑作
時は昭和10年、乃木坂の置屋で起きた密室殺人事件——芸者が刺殺された不可解な現場から物語は始まる。しかしこの事件、なぜか本格的な捜査もされず、すぐに闇に葬られてしまう。残されたのは「備忘録」と「感想録」。
捜査を始めた特高警察の志村警部補は、〈検閲図書館〉の黙忌一郎と共に事件の闇に迫るが、その先に浮かび上がるのは、青年将校たちによる不穏な動き。そして事件の背後に浮かぶドッペルゲンガーの影……。
物語はやがて、「二・二六事件」へとなだれ込み、フィクションと歴史の境界がじわりと崩れていく。
🏛️「オペラ三部作」の中での位置づけ
『マヂック・オペラ』は、山田正紀が構想した昭和史×探偵小説シリーズ「オペラ三部作」の第二作。前作『ミステリ・オペラ』が南京事件・満州建国といった外地の昭和史を扱っていたのに対し、今作では国内、それも象徴的な「二・二六事件」を主軸に据えている。
三部作のなかで本作は、歴史的事件にミステリの構造を重ねて再構築し、より読者に「謎」の輪郭を明確に提示した一冊といえる。
🔍作品の魅力:3つのキーワード
1. 密室殺人+国家陰謀
本作の発端となる「芸者殺人事件」は、単なる密室殺人ではない。なぜこの事件は揉み消されたのか? それが物語全体を貫く国家的陰謀と密接にリンクしている点が本作の特徴。
「密室は単なる舞台装置。そこに国家的な“聖域”が絡むことで、トリックが歴史の中に埋め込まれていく。」
(アオアオマン)
2. 江戸川乱歩オマージュ
『押絵と旅する男』や『D坂の殺人事件』など、乱歩の作品を想起させる構成や登場人物が散りばめられている。これが歴史小説でありながら幻想文学の香りを漂わせている理由でもある。
「怪人二十面相、押絵、目羅博士……山田正紀流“昭和版・乱歩宇宙”が炸裂!」
(たまらなく孤独で、熱い街)
3. ドッペルゲンガー=歴史の影
現実に存在するはずのない“もう一人の自分”が見えるような錯覚。それが戦前の昭和という“歪みかけた時代”を象徴するモチーフとして機能している。
🧠評価・批評の視点
◎評価ポイント
- 歴史的知識をベースにした重厚なストーリー
- ミステリとしての変則構造
- ドッペルゲンガー、密室トリックなど異色ガジェット
- 江戸川乱歩風の耽美と幻想
△指摘された欠点
- 登場人物が多く、整理が困難(ミステリの祭典)
- 歴史描写が濃密すぎて、謎解きが弱く感じる(オッド・リーダー)
- トンデモ設定のように見える描写も(Grand U-gnol)
🧠誰におすすめ?
- 昭和史に関心のある読者
- 江戸川乱歩や山田風太郎に親しんでいる読者
- 歴史と幻想、探偵小説の交差点を楽しめる読者
- 歴史改変モノやオルタナティブ歴史が好きな方
📚参考リンク
❓よくある質問(FAQs)
Q. 前作『ミステリ・オペラ』を読んでいないと楽しめない?
A. 問題ありません。登場人物に共通点はありますが、本作単独でも十分に理解できる構成です。
Q. 実際の「二・二六事件」とどう関わっている?
A. フィクションながら史実に基づいた背景描写が多く、歴史の“裏”を探るような構造になっています。
Q. トリックや謎解きは本格ミステリとしてどう?
A. ミステリとしてはやや緩めの印象もありますが、その分、歴史との絡み方が非常にユニークです。
🏁ラストにひと言:読後に残るのは“昭和”の匂い
『マヂック・オペラ』は、ただの歴史小説でも、ただのミステリでもない。そこには乱歩的幻想、戦前昭和の空気、そして「記憶の歪み」とも言える異質なトーンが宿っています。読後、奇妙な懐かしさとざらついたリアリズムがあなたを包むはず。
コメントを残す