崑崙遊撃隊

叢書サラブレッド・ブックス 99
出版社二見書房
発行日1976/09/27
装幀森下年昭、山口喜造

内容紹介

"崑崙"――中国大陸の奥深くに伝わる神秘の地。黄河の水源であり、この地を手中にした者が中国全土を治めることができると信じられていた。そんな崑崙を目指して、さまざまな事情を抱えた男たちが集まる。戦前の中国を舞台にした、山田正紀の冒険小説「崑崙遊撃隊」は、まさにその名のとおり、崑崙を目指す一団の"遊撃隊"の物語である。

主人公は大陸浪人の藤村脇。ゴビ砂漠で剣歯虎に遭遇したことをきっかけに、謎の男・森田から崑崙への案内を持ちかけられる。旅の目的は崑崙を探し求めること。しかし藤村には、別の重大な理由があった。

一行に付き従うのは、中国秘密結社の殺し屋"B.W"、馬賊の英雄・倉田、美少年のモンゴル人・天竜たちだ。彼らにもさまざまな思惑があり、それぞれが崑崙を目指す理由を抱えている。西安を出発し、ゴビ砂漠を越え、ついにラサ到着。そこで加わったのがラマ僧だ。

ラマ僧は一行に予言を残す。崑崙への道のりは過酷で危険が待ち受けているが、最後に至ればそこに驚くべき光景が広がっているだろう――。旅は遂に崑崙へと続く山脈を越えていく。

しかし待っていたのは、誰も想像できなかった事態だった。果たして辿り着いた崑崙とは…。

作品の前半は、さまざまな事情を抱えた男たちが旅を共にし、困難を乗り越えながら崑崙に近づいていく構成になっている。男たちの人となりが余すところなくえぐり出されていて、一人ひとりが非常に個性的だ。藤村の妻への執着は切実であり、カットバックを多用することでさらにその思いが際立っている。

そして後半は、待ち受けていた崑崙の正体に、読者は圧倒される。作中での描写は控えめだが、これは意図的なものだろう。観念を絶する驚きがあった一方で、想像力は掻き立てられるからだ。この謎の残されたSF設定は、後の山田正紀作品『宝石泥棒』にも通じるものを感じさせる。

戦前の中国を舞台にした魅惑的な設定。一行を待ち受ける危険と冒険。悲運にも似た男たちの人生の軌跡。そしてラストの期待を裏切るようなSF的な驚き。どれをとっても、それだけで物語の価値は十分にあると思われる。壮大な旅に相応しい、ボリュームのある一作になっている。

まさに山田正紀作品の代表格とも言えるだろう。それゆえに私は「崑崙遊撃隊」を、ぜひ読んでみてほしい一冊だと心から勧めたい。冒険小説の醍醐味がしっかりと注がれているだけでなく、その面白さを超えた、何かを想起させる作品であると思う。あなたも一緒に、崑崙へと続く道を歩んでみてほしい。

文庫・再刊情報

叢書角川文庫
出版社角川書店
発行日1978/05/30
装幀 福田隆義
叢書コミックノベルス・12
出版社講談社
発行日1984/05/26
装幀 田辺節雄、川島健三(水野プロ)
叢書講談社文庫
出版社講談社
発行日1988/08/15
装幀 天野喜孝
叢書ハルキ文庫
出版社角川春樹事務所
発行日1999/07/18
装幀 三浦均、芦澤泰偉