神々の埋葬

叢書初版
出版社角川書店
発行日1977/12/10
装幀福田隆義

内容紹介

『神々の埋葬』は、山田正紀による〈"神"三部作〉の最終作であり、第4回角川小説賞を受賞した作品です。前作の『神狩り』『弥勒戦争』に引き続き、"神"をめぐる壮大な物語が描かれています。

本作の主人公は、榊賢二と乃理子の兄妹です。幼い頃、両親と同乗したセスナ機がインド北部で墜落する事故に遭い、奇跡的に生き残りました。その後、政財界の影響力のある人々による親睦団体"渡虹会"に庇護され、育てられてきました。賢二と乃理子には、恐るべき出生の秘密がありました。実は、二人は特殊な遺伝子を持つ"神童"として生を受けており、超常的な能力を有する"神"となる運命にあったのです。

作品の舞台は、インド北部のモヘンジョダロ遺跡を中心に展開します。20世紀半ばのこの地では、"渡虹会"が巨大な陰謀を企てていました。会長の"翁"は、モヘンジョダロに眠る莫大な財宝を狙っていたのです。その目的のため、翁は賢二と乃理子が"神"として覚醒するのを待ち望んでいました。そして、翁に仕えるさまざまな人々が、兄妹に次々と姿を現します。例えば、翁の秘書で影武者的存在の西丸、乃理子の級友でヤクザの組長となっている後藤などです。

このように、兄妹は"渡虹会"によって計画的に操られてきたことを知ります。しかし、二人の"神"としての覚醒は、翁の思惑通りには運びません。互いに対立する立場にあり、能力を使って戦うことになってしまったのです。モヘンジョダロは、かつて"神"同士の戦いの舞台となった場所だったことも明らかになります。つまり、賢二と乃理子は、何千年も前の"神"の対立の継承者なのでした。

さらに、作品の時代背景として、当時のマスコミによる"神ブーム"が巻き起こっていることにも注目が必要です。笠原というCMマンが放った"神"をテーマにしたキャンペーンが、一種の社会現象となり、人々の期待を一気に高めていきました。しかし、"神"が実在すると確信した人々は、"神"から離れることができなくなり、執着と崇拝の対象となってしまいます。

人智を超越した"神"の誕生と、人々の信仰心が渦巻く様子が、見事に対比されています。兄妹が発揮する超常的な能力は次第にエスカレートし、人間離れしていきますが、その分、存在そのものの孤独感や哀しみが際立ってきます。

ラストで、"神"の姿が凄惨に描かれるのは、それを裏付けるような感があります。人間を遥かに超越した存在は、実は人間には想像もつかない苦しみを抱えていたのです。"神"という概念が人々に与える精神的な重みが、探求されています。

このように、本作は単なるエンターテインメント作品にとどまらず、"神"という存在が人類に投げかける大きな問いを提示した、骨太の作品だと言えるでしょう。キャラクターの描写も緻密で、主人公の兄妹だけでなく、脇役の人物たちも多様な個性を放っています。"渡虹会"の人々、マスコミ関係者、モヘンジョダロの考古学者など、さまざまな立場の登場人物が、物語を多角的に彩っています。

〈"神"三部作〉の結末として、本作は非常に重みのあるものとなっており、ミステリー性とSF性と哲学性を併せ持つ傑作と評することができます。文学作品として、エンターテインメントとしても、高い価値を有している作品だと言えるでしょう。

文庫・再刊情報

叢書角川文庫
出版社角川書店
発行日1979/06/10
装幀 福田隆義