
叢書 | 初版 |
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出版社 | 出版芸術社 |
発行日 | 1994/05/20 |
装幀 | 森下年昭、(装画) 細川尚「寒い夏」 |
収録作品
- 新築一年改築三回
- 脅迫者はバットマン
- 二十六日のイブ
- 見えない風景
- スーパーは嫌い
内容紹介
各短編の紹介と解説
本書は〈山田正紀コレクション〉の本格推理編として位置づけられ、路上探偵、映画探偵、放浪探偵という三人の個性的な探偵たちが活躍する5つの短編を収録しています。各作品は緻密なプロットと論理的な謎解きを特徴とし、読者を知的な推理の世界へと誘います。
「新築一年改築三回」(路上探偵)
一年で三度の改築という異常な状況から始まるこの物語は、私立探偵・野中の調査を通じて思いがけない展開を見せます。銃弾の発見により犯罪へと発展する事態は、読者の予想を裏切りながらも説得力のある結末へと収束します。特筆すべきは、冒頭から読者を惹きつける謎の設定と、それを解き明かしていく過程でのカタルシスの描写です。
「脅迫者はバットマン」(映画探偵)
映画ジャーナリストの由利を襲う不可解な脅迫事件は、バットマンのレターセットという独特なモチーフから始まります。深夜の無言電話やコウモリの死体など、恐怖を煽る要素が効果的に配置され、最終的に予想外の事件との関連性が明らかになります。展開の妙は読者を魅了します。
「二十六日のイブ」(路上探偵)
クリスマス後の大量のケーキ廃棄という異様な状況と、宝石店でのスリ事件を結びつける推理は、独創的な発想に富んでいます。一見すると荒唐無稽に思える真相も、丁寧な描写により説得力を持たせることに成功しています。
「見えない風景」(放浪探偵)
表題作は、戦後間もない三浦半島を舞台に、網元殺害事件の謎に迫ります。物理的に不可能と思われる狙撃による殺人は、本格ミステリの定石を逆手に取りながら、新たな視点を提示します。本作は、本格ミステリへのアンチテーゼとしての側面も併せ持っています。
「スーパーは嫌い」(路上探偵)
二度の自殺という不可能な状況設定に加え、すき焼きの材料購入というディテールが効果的に織り込まれています。「スーパーは嫌い」という謎めいた遺言は、物語の核心部分と巧みに結びつき、読者の推理心を刺激します。
総評
本短編集は、山田正紀の本格ミステリ作家としての力量を遺憾なく発揮した作品群といえます。各編に配置された不可能トリックは、読者の知的好奇心を満たすと同時に、人間の心理や社会状況を鋭く切り取る視点を提供しており、日本の本格ミステリの系譜における重要な一作として評価できます。