
叢書 | TOKUMA冒険&推理特別書下し(「金魚の眼が光る」) |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 1990/09/30 |
装幀 | 田渕裕一 |
内容紹介
作品の背景と概要
『灰色の柩』は、1990年に発表された山田正紀による本格ミステリ小説であり、後に『放浪探偵・呪師霊太郎』というシリーズの一作として位置づけられた作品です。昭和12年(1937年)を舞台に、詩人北原白秋、出版社で働く矢代夕子、そして呪師霊太郎を中心に展開する複層的な物語構造を持つ作品です。
物語の骨子
時代設定と社会的背景
本作品は、盧溝橋事件直後の日本、まさに日中戦争の入口に立つ時代を舞台としています。この歴史的転換点における社会の不安と変容が、物語の根底に深く刻み込まれています。作者は、個人の運命と歴史の大きな潮流を巧みに絡み合わせ、時代の「狂気」を繊細かつ鋭利に描出しています。
主要な物語の要素
- 1. 脅迫状の謎
- 北原白秋と綺羅家に届く"白霧"からの脅迫状
- 30年以上前に夭逝した詩人・中島白雨の才能を「盗んだ」と非難する内容
- 2. 見立て殺人
- 北原白秋の童謡「金魚」をモチーフにした連続殺人事件
- 各犠牲者が詩の中の金魚のように配置される特異な殺人手法
- 3. 家督相続の葛藤
- 綺羅家における相続問題
- 当主の隠し子・岸森純一郎の存在
- 親族会議をめぐる複雑な人間関係
物語の特徴と文学的評価
時代描写の秀逸さ
山田正紀は、明治37年(中島白雨の死去した年)と昭和12年を絶妙に重ね合わせることで、二つの時代に流れる「狂気」の連続性を浮き彫りにしています。歴史の転換点における個人の脆弱さと、社会の不可視な圧力を鋭く観察し、描写しています。
ナラティブの構造
本作品は、伝統的な探偵小説の形式を踏襲しながら、独自の幻想性と叙情性を持ち合わせています。特に、呪師霊太郎の登場が遅れることや、矢代夕子の視点を通じた物語展開は、従来のミステリ小説の常套手段から逸脱し、独自の文学的価値を生み出しています。
人物描写
- 1. 矢代夕子
- 当時としては稀な、アクティブで前向きな女性像
- 伝統的な役割期待から自由な精神性
- 物語の重要な推進力となる存在
- 2. 呪師霊太郎
- 金田一耕助を想起させる探偵像
- やや個性に欠けるものの、物語の謎解きにおいて重要な役割
文学的文脈
本作品は、横溝正史の探偵小説の伝統を意識しつつ、より詩的で幻想的な要素を取り入れた作品と評価できます。単なる謎解き小説を超えて、時代の本質に迫ろうとする深い文学的意図が感じられます。
結論
『灰色の柩』は、単なるミステリ小説の枠を超えた、時代と個人の運命を深く掘り下げた文学作品です。歴史の暗部に潜む人間の感情、社会の不可視な圧力、そして個人の運命が、詩と謎が交錯する幻想的な世界観の中で繊細に描かれています。
蛇足
祥伝社文庫から『灰色の柩』が刊行されます。『金魚の眼が光る』放浪探偵 呪師霊太郎シリーズを、版元の意向により改題したものです。お手にとっていただければ幸いです。よろしくお願いします。 pic.twitter.com/n8S1MlPOK5
— 山田正紀 (@anaryusisu) July 2, 2021
やはり、出版社の意向は全然効果がなかったと思います。「金魚の眼が光る 放浪探偵・呪師霊太郎」で良かったと思う次第。出版社が変わることでの諸々の制約があったのならしょうがないことですが。
文庫・再刊情報

叢書 | 徳間文庫 |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 2003/04/15 |
装幀 | 岩郷重力+WONDER WORKS。 |

叢書 | 祥伝社文庫(「灰色の柩 放浪探偵・呪師霊太郎」に改題) |
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出版社 | 祥伝社 |
発行日 | 2021/07/20 |
装幀 | 國枝達也、Paul Salmon/EyeEm/getty images |