ゴースト -創造士・俎凄一郎第一部-

叢書	講談社NOVELS
出版社	講談社
発行日	2007/09/06
装幀	藤田新策

内容紹介

🌁はじめに：都市の悪夢は現実となるか？

「だって一度も死んだことがない人間なんているはずがないじゃないか」―― この一文が、読者を“あの世界”へと引きずり込む。山田正紀『ゴースト』は、ジャンルの固定観念を軽やかに飛び越え、ミステリでもホラーでもSFでもない、まさに“山田正紀というジャンル”そのものの物語。

舞台は都市伝説と怪事件が日常と化している蒼馬市。そこへ、一つの罪を背負って出所した男が戻ってくることで、物語の歯車が動き出します。

🧩物語の構造：幾重にも折り重なる“悪夢”

本作の魅力は、“主軸”と“挿話”の並行構造。それぞれが独立しているように見えて、じわじわと繋がりを見せてくる。特に注目すべきは以下の4パート：

① 鐙橋五叉路交差点（あぶみばしごさろこうさてん）

物語の核となるのが、かつて少年を轢き殺した男が追う“交通事故の真相”。このルートを辿ることで、読者は物語の核心に近づくことになる。

🔍このパートでは、最初こそ理性的なミステリの顔を保っているが、進行するごとに現実感が崩れていき、“合理性”と“幻想”が混じり始めるのが特徴。

② 甘い殺意

ケーキバイキング中に起きた毒殺事件。安楽椅子探偵風の議論が展開されるが、それは徐々に形を変え、どこか“多重人格的”な空気を漂わせる。

🔎一見冷静な推理合戦のようで、実際は登場人物たちの「語ること」自体が嘘なのでは？という不安に満ちている。

③ パラダイス・シフト

二つのビルの隙間に宙吊りになっていた少女の死体。この奇怪な現場設定から生まれるミステリは、だんだんと“見る者によって変わる現実”を浮かび上がらせる。

🌀読者も登場人物も“事実”を確信できないまま進んでいく、山田正紀の幻視文学的魅力が炸裂する一章。

④ 角砂糖、いびつに溶けて

もはや謎そのものが解体され、現実そのものが不確定になっていくフェーズ。事件が存在しているのかすら曖昧にされていく。

📉構造的には、読者の“安心感”を一つずつ剥がしていくトリック。

レイヤー	概要	機能
A面：鐙橋五叉路交差点	①元受刑者・太田が真相を探るロードノベル的章	物語の軸／読者の視点誘導
B面：3エピソード	②甘い殺意 ③パラダイス・シフト ④角砂糖、いびつに溶けて	都市伝説→超常→認識崩壊と段階的に現実を侵食
C面：メタ都市・蒼馬市	“創造士”俎が設計した街という設定自体が虚構装置	現実・物語・読者の三重トリック

三段階で読者の“足場”を奪う設計は、著者の代表作『カオスコープ』、『サイコトパス』に通じますが、本作は 都市自体を物語生成エンジン に格上げした点で一歩踏み込むのです。

🏙️蒼馬市という舞台：狂気と幻想の都市設計

“創造士・俎凄一郎”がグランドデザインしたという設定の蒼馬市は、ただの舞台ではなく、それ自体が“狂気”の一部。

「都市そのものが語り、記憶し、嘘をつく」——この設計思想が、物語に都市型ホラーのテイストを加えている。

蒼馬市は、都市伝説が都市の構造そのものに組み込まれており、登場人物たちは知らぬ間にその“システム”に組み込まれていく。まさに、意識下の都市構造と幻想が融合した空間。

🧠ジャンルの消失？それとも融合？

『ゴースト』を一言で説明するのは難しい。それは「ミステリ」「ホラー」「SF」「サイコサスペンス」…すべてが断片的には当てはまるが、どれにも収まらない。

❝映像化不可能な天才正紀ワールドに呆然とせよ！❞ — オッド・リーダーの読感

この作品では、ジャンルではなく“体験”こそが中心にある。驚き、困惑し、裏切られ、そして再び読み直す。そんな能動的読書体験こそが本書の醍醐味なのです。

🔁読者の反応と批評

「思った方向に一度も進まない、真逆に走っていく展開が最高」
（引用：ブクログ）
「山田正紀節が爆発。サイコホラー、幻想小説、全部楽しみたい人に超おすすめ」
（引用：たまらなく孤独で、熱い街）
「感動の押し売りじゃなく、“とびっきりの悪夢”を提供する作品」
（引用：ブクログ）

🛠️テーマ：罪と記憶と赦しのねじれ

この物語は、一つの問いに集約される。

「死んだことのない人間なんて、いるのだろうか？」

つまり、「過去の罪を本当に“償える”のか」「人は記憶から自由になれるのか」。その問いを、山田正紀は蒼馬市という“箱庭”で試しているのです。

🤔おすすめポイントまとめ

幻想とミステリの完璧な融合
“語り”と“記憶”の不安定性を描く構造美
山田節が炸裂する登場人物と台詞
読者の読みを常に裏切り続けるプロット設計

🔍参考リンク・引用

📌FAQ：よくある質問

Q1. 『ゴースト』は続編がありますか？
A. 本作はシリーズ第1弾と位置づけられていますが、続刊の情報は明確ではありません。

Q2. 映像化はされていますか？
A. 現時点（2025年5月）では映像化作品の情報は確認されていません。内容的に映像化困難という声も多いです。

Q3. 初心者でも読めますか？
A. ミステリ初心者にはやや難解に感じられるかもしれませんが、幻想文学や山田正紀ファンにはたまらない内容です。

🔚あとがき：これは“感動”ではなく、“悪夢”だ。

『ゴースト』は、心を温める物語ではありません。しかし、心を“揺さぶる”物語です。ジャンルという概念に縛られず、読者を迷宮に誘う一冊。ぜひ、“あなた”自身の読解でこの悪夢に決着をつけてください。