顔のない神々

叢書KADOKAWA NOVELS
出版社角川書店
発行日1985/07/25
装幀毛利彰

内容紹介

もう一つの1970年代:「顔のない神々」の世界

山田正紀の「顔のない神々」は、1985年に発表されたSF小説です。石油ショック、公害問題、新興宗教の台頭など、混沌とした1970年代の日本を舞台に、“ひかりのみち教団”を中心とした陰謀と、それに翻弄される人々の運命を描いています。本作は単なるエンターテインメント作品ではなく、現代社会の闇を鋭く予見した社会派SFとしても高く評価されています。

あらすじ

物語は1971年、中近東を旅行中の久藤森男が、“ひかりのみち教団”信者の女性から、彼女が捨てた息子・相沢淳一を探すよう頼まれる場面から始まります。久藤は苦労の末に淳一を見つけ出しますが、彼は現地の人々から“魔王{イフリート}”と忌み嫌われ、山奥に一人で暮らしていました。

一方、1973年の日本では、“ひかりのみち教団”統理の千装槐二郎が公害企業主呪殺祈祷を行い、逮捕されます。獄中の槐二郎を訪ねた国会議員・海藤信久は、教団を利用した恐るべき野望を槐二郎に明かします。

そして、日本を襲う石油ショック。混乱の中、“ひかりのみち教団”に身を寄せていた久藤と淳一は、否応なく時代の渦に巻き込まれていきます。海藤もまた、自らの野望を実現すべく暗躍を始めます。

作品の魅力と見どころ

1. 緻密に構築された“幻代史”

「顔のない神々」最大の魅力は、史実をベースにしながらも、フィクションとして巧みに再構成された“幻代史”にあります。石油ショックや公害問題といった当時の社会問題を背景に、“ひかりのみち教団”という架空の宗教団体が歴史に介入することで、現実とは異なる歴史が展開されていきます。この緻密に構築されたもう一つの歴史が、読者に強いリアリティと緊迫感を与えます。

2. 個性豊かな登場人物

本作には、魅力的な登場人物が多数登場します。“魔王”と呼ばれた少年・相沢淳一、カリスマ性を持つ教祖・千装槐二郎、冷酷な野心家・海藤信久など、それぞれのキャラクターが丁寧に描かれ、物語に深みを与えています。彼らがそれぞれの思惑を抱え、交錯していく様子は、読者を物語に引き込みます。

3. 社会派SFとしての側面

「顔のない神々」は、単なるエンターテインメント作品ではなく、現代社会の抱える問題点を鋭く指摘した社会派SFとしても評価できます。新興宗教の危険性、政治の腐敗、環境問題など、1970年代の日本が抱えていた問題は、現代社会にも通じるものがあります。作品を通して、私たちはこれらの問題について改めて考えさせられます。

4. 重厚なテーマと衝撃の結末

物語は、宗教、政治、経済、環境など、様々なテーマが複雑に絡み合いながら展開していきます。そして、最後に待ち受ける衝撃的な結末は、読者に深い余韻を残します。“顔のない神々”というタイトルの意味、そして作中で描かれた出来事が持つ意味を、読者はそれぞれに解釈することになるでしょう。

まとめ

「顔のない神々」は、緻密な構成、魅力的なキャラクター、そして現代社会にも通じるテーマ性によって、多くの読者を魅了してきた傑作です。単なるエンターテインメント作品を超え、歴史、社会、そして人間の在り方について深く考えさせる、重厚な作品と言えるでしょう。もしあなたが、SF小説を通して社会問題について考えたい、あるいは複雑でスリリングな物語に没頭したいと考えているなら、「顔のない神々」はまさにうってつけの一冊です。ぜひ、この機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。

文庫・再刊情報

叢書角川文庫
出版社角川書店
発行日1987/03/10
装幀 毛利彰、菊池千賀子