地球・精神分析記録(エルド・アナリュシス)

叢書初版
出版社徳間書店
発行日1977/12/25
装幀新居田郁夫、矢島高光

収録作品

    • Ⅰ 兆候分析 悲哀—ルゲンシウス—
    • Ⅱ 既往歴分析 憎悪—オディウス—
    • Ⅲ 無意識分析 愛—アモール—
    • Ⅳ 連想分析 狂気—インサヌス—
    • Ⅴ 総合診断 激情—エモツィオーン—

内容紹介

「地球・精神分析記録」は、人間の心理と神話が交錯する独特の世界を描いた作品です。この物語は、人類が感情を失い、生ける屍と化してしまった未来を舞台に展開します。そんな中、人間の失われた感情を象徴する四体の神話ロボット―悲哀(ルゲンシウス)憎悪(オディウス)愛(アモール)狂気(インサヌス)―が登場します。彼らは、人間が忘れ去った神話と感情を受け継ぎ、新たな物語を紡ぎ出します。

本作の魅力は、単にフィクションの枠組みを超えた深いテーマにあります。山田正紀は、精神分析の手法を用いて、人間の心の奥深くに潜む感情や欲望を探ります。各章は、異なる分析手法―徴候分析既往歴分析無意識分析連想分析総合診断―に基づいており、読者に対して、自己の内面を見つめ直す機会を提供します。

物語の中で、人類は神話ロボットたちに対してコンプレックスを抱くようになります。しかし、このコンプレックスを克服し、神話を人類の手に取り戻すための試みが、物語の中心的なテーマとなっています。謎のゴムマスクの男に導かれた四人の工作員たちは、神話ロボットの破壊に向かいますが、物語は予想外の展開を見せます。

「地球・精神分析記録」は、集合的無意識の喪失というテーマを掘り下げながら、人間とは何か、我々の存在意義は何かという根本的な問いを投げかけます。世界が変容する中で感じる不安感や、モチーフの繰り返しによる悪夢のような体験は、読者に深い印象を残します。

山田正紀によるこの作品は、科学と精神分析、神話と現代社会を融合させた独特の世界観を持っています。それは、読者に対して、現代社会における人間性や感情の在り方について考えさせると同時に、失われたものを取り戻すためのヒントを与えてくれます。

文庫・再刊情報

叢書徳間文庫
出版社徳間書店
発行日1981/01/15
装幀 深沢幸雄、矢島高光
叢書徳間デュアル文庫
出版社徳間書店
発行日2001/08/31
装幀 ヨコタカツミ