幼虫戦線3ーヘル・パラダイスー

叢書C☆NOVELS
出版社中央公論社
発行日1995/09/30
装幀小島文美

内容紹介

終末へと加速する人類の行方

山田正紀の「幼虫戦線(デリヴィルス・ウォーズ)」シリーズ第3巻は、現代日本を襲う未曾有の危機を描いた衝撃的なSF作品です。死産や新生児死亡の異常な増加、特に男児のみが死亡するという不可解な現象が社会に広がりつつある中、厚生省はこの事実を隠蔽しようと必死です。彼らの懸念は明確です—男女比率の歪みや出生率の低下が国民の間にパニックを引き起こすことへの恐れです。

一方で、日本経済は急速に崩壊への道を歩んでいます。前例のない株価暴落と円高が続き、まるで意志を持った生き物のように日本経済は破滅へと向かっています。この経済的「葬流」はもはや誰にも止められないものとなっています。

そして物語の中心には「カゲロウ」と呼ばれる謎の妖虫の存在があります。この妖虫は敵なのか、それとも味方なのか。主人公の一人が愛した少女はカゲロウの力で甦り、彼はカゲロウが救世主的な存在「エンジェル」ではないかと期待を抱きます。神も欧米先進国も日本の滅亡を容認する中、日本人に味方する超自然的存在が現れるのでしょうか。

物語はさらに新興宗教の台頭も描きます。彼らは混乱する社会情勢の中で力をつけ始めています。そして「カフカの城」の主人公Kと自分を同一視する謎めいた少女「ケイ」の存在も物語に深層的な意味を与えています。彼女は味方のように見えて敵なのかもしれません。日本は内外の脅威に包囲され、存続の危機に瀕しているのです。

山田正紀はこの作品で、環境問題、経済崩壊、宗教、そして人間の存在意義といった重いテーマを独特の感性で紡ぎ上げています。特に注目すべきは、「デリヴィルス」という言葉が「デヴル(悪魔)」を連想させる一方で、カゲロウが「エンジェル(天使)」として描かれる可能性を示唆している点です。この二項対立は、善悪の境界が曖昧になる終末的状況における価値観の転換を象徴しています。

「幼虫戦線」シリーズは単なるパニック小説ではありません。それは現代日本社会の様々な問題—少子化、経済危機、精神的空洞化—を鋭く抉り出し、人類の未来に対する深い問いを投げかける哲学的作品でもあるのです。カゲロウという存在を通して、山田正紀は人間と自然、科学と宗教、破壊と再生という永遠のテーマに新たな光を当てています。

日本の危機的状況と謎めいた妖虫「カゲロウ」の介入。この物語は読者に問いかけます—人類の終焉は避けられないのか、それとも新たな共存の道があるのか。その答えを探る旅が「幼虫戦線(デリヴィルス・ウォーズ)3」の本質なのです。