
叢書 | TOKUMA NOVELS(女囮捜査官1ー触姦ー) |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 1996/02/29 |
装幀 | 西口司郎、多田和博 |
内容紹介
山田正紀『囮捜査官 北見志穂1』徹底解説
山田正紀が手がける「囮捜査官 北見志穂」シリーズは、元々1996年にトクマ・ノベルズ(徳間書店)から刊行された 『女囮捜査官1―触姦―』 としてスタートしました。そこから、幻冬舎文庫版では 『女囮捜査官 1 - 触覚 -』 というサブタイトルへと変更され、さらに朝日文庫版では 『おとり捜査官1』 というタイトルで再刊行。最新(2021年12月時点)では徳間文庫<山田正紀・超絶ミステリコレクション#2>として 『囮捜査官 北見志穂1 山手線連続通り魔』 の表題になっています。
シリーズ全体は “五感”をモチーフ にした副題(触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚)を掲げて進行し、本作はその記念すべき第一作目。「被害者学」×「囮捜査」 という非常にユニークな警察組織の物語に加え、意外な真犯人が幾重にも仕掛けられた多重トリックが魅力の長編ミステリです。
2-1. 基礎データ
まずは、本作の刊行情報などを簡単におさらいします。(※こちらは本記事の「書籍情報」と重複する内容を含みますが、改めて整理します。)
- 初出(トクマ・ノベルズ):
- ・タイトル:『女囮捜査官1―触姦―』
・出版社:徳間書店
・発行日:1996年2月29日 - 幻冬舎文庫版:
- ・タイトル:『女囮捜査官1 - 触覚 -』
・出版社:幻冬舎
・発行日:1998年2月25日
・解説:法月綸太郎 - 朝日文庫版:
- ・タイトル:『おとり捜査官1』
・出版社:朝日新聞出版
・発行日:2009年3月30日
・解説:法月綸太郎、新保博久 - 徳間文庫<山田正紀・超絶ミステリコレクション#2>:
- ・タイトル:『囮捜査官 北見志穂1 山手線連続通り魔』
・出版社:徳間書店
・発行日:2021年12月15日
・解説:青崎有吾
シリーズ第一作では、「触覚」をモチーフとした殺人事件が描かれており、“被害者の衣服や髪などに触れる”“犯人の憎悪に触れる” といった要素もキーワードとして使われています。
2-2. あらすじ概要
本作の舞台は警視庁・科学捜査研究所(科捜研)に新設された「特別被害者部」という架空の部署。ここでは、一般的には歓迎されない違法スレスレの囮捜査を主たる業務とし、山田正紀流のエッジの効いた警察小説が展開していきます。
- 主人公:北見志穂
- “生まれながらの被害者体質”を持つ女性捜査官。男性から性的な被害を受けやすい(痴漢やストーカーにつきまとわれがち…)という体質は本人にとって悲劇でした。しかし、科捜研の犯罪心理学者・遠藤慎一郎が提唱する「被害者学」の観点から、その体質こそが最強のおとり捜査官の資質であると見抜かれ、彼女は特別被害者部に採用されます。
- 特別被害者部の存在意義
- 捜査一課など既存の警察機構が掴みにくい“被害者”側のデータを重視し、危険人物の特定や検挙に活用するという、新しい試みの組織。そこには政治的・権力的な思惑も潜んでおり、捜査一課など他部署との軋轢も絶えません。
- 事件の発端:山手線沿線での連続通り魔殺人
- 本作では、JR品川駅の女子トイレで若い女性が絞殺され、スカートを持ち去られるという猟奇的な事件が起きます。最初の犠牲者は“ミニスカートを剥ぎ取られた”無残な姿でした。その後、同様の手口で女性が襲われる事件が相次ぎ、しかも一人は髪の毛を切り取られていた…。犯人は一体何を目的とし、どんな憎悪を抱いているのか——。
- 捜査の流れ
- 作中では、複数の容疑者が次々に浮上し、そのたびに北見志穂がおとり捜査を仕掛けます。ところが、容疑者が白であることが判明しては次の容疑者が出現……というサスペンスフルな展開。二転三転する推理の果てに待ち受ける“本当の真犯人”が何とも衝撃的です。
2-3. シリーズの特長:五感+被害者学
本シリーズを貫く大きな特色は、何といっても 「五感をモチーフにした犯罪と捜査」 という仕掛けです。第一作である本作は「触覚」をテーマに据え、被害者の衣服に触れる、髪を切る、といった異常行為 がキーポイントになっています。
2-3-1. “被害者学”の発想
作中で遠藤慎一郎という犯罪心理学者が提唱する“被害者学”は、異常犯罪の被害者データを徹底分析することで、犯人が好む“理想的な被害者像”を割り出すという手法です。プロファイリングが犯人側の特徴を洗い出すのに対し、こちらは “犯人に狙われやすい被害者”の特徴を先に導き出し、それを囮にする という発想。
- 北見志穂は、その“理想の被害者”となりうるルックス(美貌)、体質(男性から狙われやすい雰囲気)を持ち合わせているため、新部署の主力メンバーとして選ばれます。
- こうした捜査方法は、当然組織内外から 「倫理的にどうなのか?」「捜査官を危険にさらしているだけでは?」 という批判を招きます。さらに、検察や捜査一課からはしばしば反感を買います。
その組織的対立もストーリーの軸となり、ミステリ要素だけでなく、警察小説としての醍醐味も味わえるわけです。
2-3-2. サイコスリラー的な要素
本作は、犯人がどんな憎悪(ミソジニー)を抱いているのかを丁寧に追うサイコスリラーの側面も備えています。女性を狙う異常犯罪が連続して発生し、その背景には犯人の歪んだ欲望や女性観が隠されています。そこに囮となるヒロインの北見志穂が身を晒すことで、読者もはらはらしながら真相に迫る構造になっています。
2-4. 詳細ストーリー解説
ここからさらに掘り下げたストーリー解説を行います。ただし、大きなネタバレは避けつつ、序盤から中盤の捜査の変遷や物語の見どころを整理してみましょう。
2-4-1. 第一の事件:品川駅の女子トイレ殺人
- 被害者:浜松町に勤めるOL(恵子)
- 彼女は火曜日の朝、なぜか品川駅の女子トイレに入り、そのまま絞殺されてスカートを持ち去られました。遺体の体内に男の体液はなく、性交渉の形跡もないのにスカートだけ剥ぎ取られているという異常さが際立ちます。
- 容疑者1:清掃アルバイトの目黒
- 目黒は駅の清掃員バイトをしている大学生で、事件当日が非番だったにもかかわらず品川駅に来ていた事実が浮上します。何らかの意図があったのではないかと疑われ、捜査本部は新部署・特別被害者部に協力を求めました。
- 囮捜査1回目:
- 北見志穂が挑発的な服装で、あえて同じ駅・同じ女子トイレを利用。目黒が犯行に及ぶならば現行犯逮捕を狙う作戦でした。しかし、その最中に別の女子トイレで 第二の犠牲者(同様の状況のOL) が発見され、目黒は逆に“犯人ではない”ことが明らかに。囮捜査は失敗に終わります。
2-4-2. 容疑者の変遷と警察内部の温度差
- 捜査一課の井原警部補や、検察の那矢検事らは、失敗を「やはり囮捜査など役立たずだ」と糾弾。北見志穂や特別被害者部は、さらに逆風にさらされます。
- ところが、ホームレスの黒木や駅構内に常駐している人々の証言を細かく拾っていくと、新たな怪しい人物が浮かび上がるのです。
2-4-3. 容疑者2:デパート勤務の古田
- 黒木たちホームレスが、女子トイレに潜んでいた「中年男」を追い払ったという目撃談。そこから、休日(火曜日)のデパート勤務の古田が浮上します。
- しかし、古田を探ると、どうも通り魔殺人の動機とは結びつかない部分が多く、また容疑が固まらずに捜査は振り出しに戻ります。
2-4-4. 第三の犠牲者:専門学校生の静江
- 大崎駅近くの公園で、今度は髪を切られた女性遺体が発見されます。前2件とは微妙に手口が異なるものの、同一犯と考えられる要素が多々あります。
- スカートは残っていたが、その代わり被害者は髪を切り取られていた。そして強姦の形跡はない一方、コートには男の体液が付着している。
- さらに聞き込みを進めるうち、被害者が痴漢被害に悩んでいた可能性が浮かび、どこかに電話予約をしていた事実も判明。
2-4-5. 容疑者3:相沢義彦
- 美容室の予約電話があったが、その日は定休日だった…という証言から、美容師の相沢が登場。
- 相沢は女性への暴力癖があり、しかも被害者の特徴と一致しそうな痴漢行為者の目撃証言とも重なります。
- 囮捜査2回目が実行され、北見志穂が相沢の前に現れることで、相沢は確かに女性暴行の前科があり、危険人物だったことが判明。しかし、どうも連続通り魔の真犯人とは言いきれない部分が残ります。
2-4-6. 真犯人へと繋がる糸口
- 一方、雑誌配送員の青年・夕張の存在が浮かび上がります。彼の妻・直美が、被害者たちと同じタイプ(さらには志穂とも近い雰囲気)であることに気づき、北見志穂は新たな囮捜査を計画。
- 怒り狂った男の歪んだ欲望と憎悪が、どのように連続通り魔殺人を引き起こしていたのか
——ここから先は作品を実際に読んで体験してほしい部分です。
2-5. 読みどころ・魅力
2-5-1. 二転三転する犯人像
最初に疑われる目黒、次に怪しさが増す古田、さらに相沢…と、捜査陣はめまぐるしく追いかける相手を変えていきます。そのたびに北見志穂は囮捜査に身を投じ、読者は「今度こそ犯人か?」と期待するも、「実はそうではない」という展開の繰り返し。
この「犯人捜し」の迷走が、本書の大きな醍醐味です。そして最後に明かされる真相は、ある意味「納得できる」ものでありながら、背筋の凍るような異様さをまとっています。
2-5-2. リアルな痴漢・性犯罪の恐怖
本作では、被害者の女性に対して性的暴力が直接描写されるわけではありませんが、痴漢行為やストーカー被害についてはかなり現実味のある表現が多いです。
北見志穂は「美人だから」「派手な格好だから」というだけで痴漢やストーカーに執拗につけ回され、さらに周囲からは 「誘ってるんじゃないの?」 的な勘違いをされる苦痛を味わってきました。これは現代の読者にとっても、なお通じるテーマです。
2-5-3. 警察小説としての面白さ
単に「犯人を追うミステリ」というだけではなく、捜査一課×特別被害者部の組織間対立や、那矢検事らとの葛藤など、いわゆる“警察小説”のエッセンスも非常に豊かです。「おとり捜査」という手段自体が法律ギリギリであるため、他部署や世間からも白い目で見られ、協力を得られにくい。
こうした中で、志穂や袴田刑事らが正義と信念を貫こうとする姿勢が印象的に描かれます。
2-6. 豊富な感想・レビューの存在
2-6-1. 国内ミステリ作家たちからの絶賛
幻冬舎文庫や朝日文庫版には、我孫子武丸、法月綸太郎、麻耶雄嵩、恩田陸、二階堂黎人など、新本格ミステリの旗手たちによる熱い解説が付いています。彼らの言葉を通じて、山田正紀作品がどれほど評価されているかがはっきりと分かります。
「本格ミステリの技巧とエンターテインメント性の融合」「女性視点の警察小説として画期的」
2-6-2. 一般読者レビュー(外部サイト引用)
- Booklog
- ・URL: https://booklog.jp/
・こちらで「囮捜査官 北見志穂」や「女囮捜査官」で検索すると、複数の読者レビューが確認できます。多くのレビューが「二転三転するトリックに驚いた」「ハードボイルド要素も強く楽しめた」「“被害者体質”設定の斬新さが面白い」といった評価を残しています。 - 読書メーター
- ・URL: https://bookmeter.com/
・「女囮捜査官」「おとり捜査官 北見志穂」などで検索すると、本作を含むシリーズ全般へのコメントが多く見られます。
・なかには「官能小説っぽいタイトルだが中身は本格ミステリ」「山田正紀のサスペンスとして一番好き」という感想も。
※いずれのサイトもユーザー投稿型レビューサイトのため、内容の正確さやネタバレの有無にはご注意ください。
2-7. 書評・感想(総括)
2-7-1. あえて激しい性描写を回避した“乾いた”作風
タイトルや表紙に惑わされがちですが、本作はいわゆる官能小説ではなく、謎解きと心理的サスペンスを重視した警察小説・本格ミステリです。被害者のスカートを剥ぐ、髪を切る……といった行為が登場し、かなり猟奇的な要素はありますが、必要以上に生々しい性描写は排され、むしろ犯人の病んだ心理を強調しています。
2-7-2. 北見志穂というキャラクターの魅力
- 被害者としての苦痛を抱えつつ、それを武器として捜査に挑むという複雑な内面が魅力的です。
- “組織の中では異端児”“一人前の捜査官として認められたい”という思いもあり、そのジレンマが物語全体のエネルギー源になっています。
2-7-3. 「連作長編ミステリ」としての序章的役割
この第一作は、設定紹介や主人公の成長描写が大きな比重を占めます。しかし、それでも事件自体は十分な読み応えのある二転三転構成を持ち、単独のミステリとして成立。
一方で、最終巻(旧版では第5巻)に向けての伏線や、警察内部のさまざまな暗闘などが薄っすらと示唆され、“長いシリーズの始まり” としてのワクワクも味わえます。
2-8. ここからさらに踏み込む! 豊富な意見・感想の具体例
本作に対する多様な読者の声を集めたところ、次のような意見が多く見受けられます(*個人ブログ、SNS、書籍レビューサイトなどで広く言及されている内容を総合し、筆者が整理したものです)。
- 「タイトルから想像した内容と違って、正統派ミステリで驚いた」 - 幻冬舎文庫版の『女囮捜査官1―触覚―』や、初出の『女囮捜査官1―触姦―』は、刺激的なタイトルゆえに官能要素を期待する読者もいるようですが、実際は犯人探しと緻密な捜査描写がメインの本格推理。
- 「二転三転する推理展開が秀逸」 - 明らかに怪しい人物が白だったり、逆にまったく無関係と思われた人物が決定的に怪しかったりと、ストーリー構成にメリハリがありページをめくる手が止まらない。
- 「北見志穂が身を晒す囮捜査は読んでいてハラハラする」 - 物語の緊迫感の源となっており、特にクライマックスの囮捜査シーンはスリル満点という声が多い。
- 「被害者学という設定が本格的に活躍する巻とそうでない巻がある」 - シリーズ通して読むと分かることだが、第一作ではまだ“被害者学”の概念自体の説明が多く、実際の捜査手法としてはまだ模索している段階。今後の展開で活きてくる。
- 「女性蔑視やミソジニーなど社会問題を先取りした視点がある」 - 1990年代に書かれた作品だが、満員電車の痴漢など、現代にも通じる問題提起が感じられるという評価。
2-9 まとめと今後の展望
2-9-1. シリーズ第一作の価値
本作『囮捜査官 北見志穂1(山手線連続通り魔)』は、“最初の一冊”としてシリーズの土台をしっかりと築いている非常に重要な作品です。
・警視庁特別被害者部が創設された経緯、北見志穂の人となり、囮捜査という危険な手法の光と影……それらを描きつつも、ミステリとして完成度が高い。
2-9-2. シリーズを続けて読みたくなる魅力
- 五感をテーマにした連作であること。
- 志穂と袴田刑事のコンビが巻を追うごとに新たな試練に挑む。
- 警察内部や検察との確執がどう変化していくのか。
- 最終的には驚くべき結末が待っている(旧第5巻にあたる部分)。
- さらに2021年版では「5巻を外してシーズン2へ」と作者自ら予告しており、新作への期待感も高まっています。
2-9-3. ぜひ実際に手に取ってみてほしい一冊
地味に感じるかもしれませんが、実際に読んでみるとスピーディーでサスペンスフルな警察ミステリに仕上がっており、女性読者にもぜひ体験してほしい作品です。
結論
『囮捜査官 北見志穂1(山手線連続通り魔)』は、シリーズの幕開けとして魅力満載の本格ミステリ+警察小説。
囮捜査・被害者学・女性蔑視への問いかけなど、多彩な要素が絶妙に絡み合い、二転三転する犯人像が読者を最後まで飽きさせません。ぜひこの第一作から読み進め、北見志穂が潜り抜ける“シリーズ全五巻(+今後の新シーズン?)”のドラマを体感してみてください。
参考になった方は、ぜひ上記のURLや書籍情報を参照しつつ実際に手に取ってみてください。
ハードな題材に思えるかもしれませんが、読後には “ミステリのおもしろさ” と“主人公を応援したくなる気持ち”が込み上げてくるはずです。
以上、みなさんの読書ライフに少しでもお役に立てば幸いです。
文庫・再刊情報

叢書 | 幻冬舎文庫(サブタイトルを-触覚 -に変更) |
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出版社 | 幻冬舎 |
発行日 | 1998/02/25 |
装幀 | 辰巳四郎 |

叢書 | 朝日文庫(タイトルを「おとり捜査官」に変更) |
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出版社 | 朝日新聞出版 |
発行日 | 2009/03/30 |
装幀 | 多田和博、getty images |

叢書 | 徳間文庫<山田正紀・超絶ミステリコレクション#2>(タイトル・サブタイトルを「囮捜査官 北見志穂1-山手線連続通り魔-」に変更) |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 2021/12/15 |
装幀 | KENTOO、円と球 |